Q.保護者の方より「小学校の○○先生は、うちの子を良く分かってくれたのですが・・・・」

保護者 「小学校の○○先生は、うちの子を良く分かってくれたのですが、中学校の○○先生は、うちの子を分かってくれないんです。どうしたら分かってもらえますか?」

鈴田 中学校は、小学校と大きくシステムが変わるので、そのように感じられることもあるかも知れませんね。お母さんがそのように感じる理由を、○○先生とお話しされてみてはいかがですか。

保護者 「いえ、システムの話ではなく、○○先生がうちの子をみてくれないんです。家に帰ってきて、「今日もいやだった」と悲しそうな顔をするんです。○○先生に一度話をしてみましたが「学校では楽しそうにしています」と言われただけでした。」

鈴田 学校では楽しそうにしてるとのことですが、ご本人は、学校を楽しんでいますか?

保護者 「いえ、そういう風に振る舞っているだけなんです。本当はいやなことも、家に帰ってくるまで我慢してるんです。それを○○先生はわかってくれないんです。」

鈴田 なるほど、いやなことも我慢して、周囲に伝え切れていない可能性があるんですね

保護者 「そうなんです。小学校の時の○○先生は、楽しそう振る舞っていても本人の微妙なサインに気がついてくれたのに、今度の○○先生は、ちっとも気がつかない先生なんです」

鈴田 お子さんは、上手に自分の気持ちを表現するのが得意ではない、上手に表現するスキルの獲得途中なのかも知れませんね。そんな時には、お母さんが言うように、お子さんの表出するサインを見逃さないようにしなければなりません。小学校の時の○○先生は、そのサインを見つけるのが上手な先生だったんでしょうね。

保護者 「そうです。だから今の○○先生にも、うちの子のサインをちゃんと分かってもらいたいんです」

鈴田 わかりました。そのためにはやるべきことが3つあります。一つ目はお母さんがサインをしっかりと受け取ること、二つ目はご本人へより適切な表現方法を伝えること、三つ目は(現在は上手でないが)より適切な表現方法を学んでいる途中であることを○○先生へ伝えることです。

保護者 「意味がわかりません。本人は表現できないので困っているんです。」

鈴田 そうですね。なので、まず、そのサインをしっかりと受け止めてあげてください。その上で、よりよい表現方法があれば、それも伝えてください。そして、○○先生へ、その学習中であることを伝えてください。ご本人が、より適切な表現方法を身につける努力しているが、その獲得途中であることを○○先生に分かってもらうことが大切です。

保護者 「表現方法を教えるとは、本人の表現方法を拒否することではないですか?本人がサインをだしているので、受け取るか受け取らないかは先生の問題だと思います」

鈴田 そうですね。サインを受け取るか受け取らないかは、先生の力量にも無関係ではないですね。ただし、一般的に受け取りやすいサインと受け取りにくいサインがあります。受け取りやすいサインを表出できることは、本人さんにとってとても有利なことだと思います。

保護者 「それはそうでしょうけど、先生であれば、子どものサインに気がつくべきだと思います」

鈴田 特定の場所、特定の人にしか伝わらないサインには要注意です。なぜなら、その場所から離れたら、その人がいなくなったら、子どものサインは通じなくなってしまうからです。大人は、サインを受け止める努力をしなければなりません。同時に、サインを受け止めた大人は、それをより広く分かりやすいものに替えていく努力もせねばなりません。

保護者 「じゃあ、私たちがいけなかったのですか?」

鈴田 いえ、まずはサインを受け止めることからスタートです。次の段階に進むのに若干戸惑ったということでしょう。ただし、今はご本人さんのサインを受け止めることを優先すべきでしょう。そして、その後に、または同時に、サインをより適切なものに替えていきましょう。これを怠ると、そのサインに慣れていない先生等に対してお子さんが「○○先生はわかってくれない」と誤解してしまう可能性があります。これはお子さんにとっても、先生にとっても、とても悲しい誤解です。

保護者 「受け止めるだけではなく、それを広げていくことなんですね。そこまでの余力はありませんでした。今からでも間に合うでしょうか?」

鈴田 難しく考える必要はありません。お子さんには分かってくれる人が、お母さんを含め複数いらっしゃいます。それが広がっていくイメージを持ってください。そのためには周囲の理解と本人さんの成長という両方向からアプローチすればよいだけです。ただし、人と人の関係は、相性もあるので、無理しすぎないことが大切ですね。

保護者の方 「○○先生はわるい先生ではないので、うちの子のサインの出し方も足りない面があったのかもしれません。少しずつ教えていきます」

鈴田 はい。ただし急な方向転換は、お子さんにとっては苦しい場合もあります。大切なのは信じられる人がいることですので、お子さんの味方のままでいること、その範囲を守りながら頑張ってみてください。

小学校時代、Aさんは、困ったことがあると、指の関節をパキパキと鳴らしていました。それは、Aさんの助けてもらいたいとのサインなのです。小学校の先生は、Aさんが指の関節をならす度に、「どうしたの?」と声かけしてくれました。中学校になり、はじめてのクラス、休み時間に隣の子から話しかけられトイレに行けなかったAさん、授業中にトイレにいきたくなってしまいました。最初は我慢していましたが、我慢できなくなり、指をパキパキとならしました。授業は進み、Aさんは、我慢ができずに教室を飛び出し、トイレに駆け込みました。その後、先生に「トイレは休み時間にいっておいてね。あと、どうしてもの場合でも、ちゃんと一言いってから行くようにね」と指導されました。Aさんはその先生が、分かってくれない先生であると感じ、中学校が怖い所だと思い始めました。これは、お互いにとって不幸なことです。このような状況に陥らないように、特定の人だけに分かるサインがあれば、その表現を少しずつでも分かりやすいものにかえていきましょう。先生や周囲の人は、かわっていくものです。それを念頭に置いて準備しておきましょう。ただし、焦りは禁物ですよ。