Q.保護者の方より「ストレスを溜めないために、本人の言うことを全部聞かないといけないのですか?」

保護者 ストレスを溜めないために、できるかぎり本人の思い通りにするように言われました。最近、お店に行くたびに、お菓子を買っています。毎晩、散歩に行きたいと言われて、困っています。どうしたらいいでしょうか?

鈴田 まず、ストレスについて考えてみましょう。ストレスが高すぎる状態はよくありません。これはわかりますね。でもストレスが低すぎることもよくないんです。

保護者 そうなんですか?ストレスはない方がいいと思うのですが・・・

鈴田 ストレスは、生産性に大きく影響します。ストレスが低すぎると、生産性の低い生活になってしまいます。またストレスが高くなりすぎると、一時的にはがんばれても、そのうちに気持ちも体も弱ってきてしまいます。つまり、ストレスは、低くもなく、高くもなく、その中間にあることが望ましいのです

保護者 中間とはどの程度ですか?

鈴田 高すぎない、低すぎない程度と思ってください。幅があります。高ストレス状態が長く続かないようにすることと、低すぎる状態を長く続けすぎない程度と思ってください。

保護者 夜、散歩に行かないと、ストレスが溜まりますか?

鈴田 溜まるでしょうね。でも、散歩に行けば、お父さんとお母さん、きょうだい児さんのストレスが溜まるでしょうね。誰かを優先して、誰かが我慢する状態が続くかもしれません。

保護者 どうしたらいいでしょうか?

鈴田 ストレスを溜めすぎないことは大切です。ただし、全ての望みを叶えることは物理的に不可能で、また周囲の負担が大きくなりすぎます。可能な範囲を提示していく必要があります。ストレスが溜まってから処理するという考え方から、ストレスマネジメント(エネルギーの有効活用)へと視点を切り替えましょう。ストレスが生じることは当然で、その負荷の量と継続性をコントロールすることに視点をおいてみてください。

ストレスと上手くつきあうためには、ストレスが溜まってから処理するという事後処理だけではなく、事前にどうするかを意識しておくことが大切です。我慢させるストレスではなく、先に進むためのストレスの方が生産的です。

保護者 ちょっとなら我慢させていいということでしょうか?

鈴田 ご本人の表現能力に大きく影響します。例えば、拒否やSOSが上手に表現できる子であれば、きつい場合に「○○はいやな気持ちになるから、あまりしたくない。」「きついから休憩させて」など表現できますね。そのような状態であれば、がんばることにチャレンジするのもよいでしょう。ただし、拒否が上手くできない、SOSが上手く出せない状態では、無理しすぎはよくないでしょう。買い物や夜の散歩がSOSのサインの可能性もありますね。

同じ事柄でも、ストレスに感じる場合とそうでない場合があります。例えば、素晴らしい音楽だと思っているものでも、眠たい時には、うるさくストレスに感じます。同じものでも、受取手の状態によって、その価値が変わるのです。お子さんが、何かしたい、それを我慢するという場合には、その対象だけではなく、お子さん自身の状態が関係するのです。早寝早起き朝ご飯、適度な運動等の生活リズムを整えること、お子さん自身の状態を良い方向へ進めることもストレスマネジメントには大切です。先ほどの例で言えば、音楽が悪いわけではなく、寝不足をどうにかするという考え方ですね。また、ストレスの感じ方を、ある程度コントロールする方法もあります。同じ事柄でも、ポジティブに考える人と、ネガティブに考える人がいますね。実は、ポジティブに考えるというのは、生まれつきの性格だけではなく、ある程度は練習して獲得できるものでもあります。

保護者 家の中以外では、我慢できているようなんです。学校でも、「何の問題もありません」といわれます。ただし、家に帰ってきてから荒れるんです。学校の先生によっては、甘やかしすぎていると言われますし、別に相談した先生からは、好きなようにさせなさいと言われて困っているんです。

鈴田 「学校でがんばること=良い」ではなく、「学校でがんばる、かつ家でも落ちついている=良い」という風に、(場面毎にばらばらに捕らえるのではなく)トータルで判断することが重要です。学校で上手く表現できていない状態なのかもしれませんね。

保護者 学校の先生は「家で甘やかしすぎ」「家庭でも厳しくしてください」と言われます。

鈴田 学校の先生は、学校場面でのご本人を基準に判断していますから、ご家庭の様子がよく伝わっていないのでしょう。ご家庭の様子をしっかりと伝えていくことが重要です。また、ご本人が家庭内でしか表現できないような特性をもっている可能性もあります。これは学校の先生にとって、非常に理解が難しい部分です、この点は専門家などを間に入れて学校の先生と話し合っておく必要があるでしょう。

保護者 結局、我慢させていいのですか?言われた通りにしなくてはならないですか?

鈴田 本人さんの状況を把握することから始める必要があります。まずは、ご本人の意見をしっかりと聞き取る必要があります。そして把握した情報を元に計画を立てましょう。

「我慢させる」、「我慢させない」などの選択肢が目の前にあると、ついそれを解決したくなります。もちろん解決できれば良いのですが、時に本質的な問題解決につながりにくい場合があります。迷った時には、一度立ち止まって、本人さんと向き合ってみてはどうでしょうか。

保護者 すでに学校や相談支援場所で計画は立ています。

鈴田 その中にご本人さんの意見は入っていますか?

保護者 いえ、先生が作ってくださったものですし、それに本人は上手くしゃべれないので・・・

鈴田 もしそうであるならば、なおのことご本人さんの意見が重要になります。どなたかが通訳する(ご本人の意見を想定してもかまいません)必要があります。

保護者 それを計画にいれるのですか?すでに出来上がっているので二度手間になるかと思いますが・・・

鈴田 計画は、紙面だけではなく、それを作り上げるプロセスが重要です。多面的にみること、ご本人さんや保護者の方の意見、専門家の意見をすり合わせていくことがとても大切なんです。その中で、ご本人さんが自身について理解を深めたり、周囲がご本人さんへの理解を深めたりできますからね。

保護者 どうやって作ればいいのですか?その中で、本人の意見を聞かなければならないとなったらどうしたらよいですか?

鈴田 あまり大げさに考えなくても大丈夫です。ご本人の意見をしっかりと聞き取る(予想する)こと、ご両親の意見、学校の先生の意見、専門家の意見をしっかりと出していくことです。意見がたくさん出たら、そこから優先順位をつけていきます。できることできないこともその中で話し合ってみてください。

保護者 優先順位をつけるのですか?一番困っているのは、買い物と散歩なんです。

鈴田 すべてのことが一度に解決しないことがありますし、ご本人さんと保護者の方の意見が違う場合あります。また、保護者の方が一番解決したいものへたどり着く前に、クリアすべき課題もあるかもしれません。優先順位をつけることは、そのような判断を行っていくことです。それを、ご本人さんや周囲の人が一緒にやっていく作業プロセスに意味があるのです。そこに皆で共有できるルールが生まれることもありますよ。

保護者 ルールですか?

鈴田 そうです。ご本人の思いだけでなく、学校の先生の考えだけでなく、保護者の方の願いだけでなく、それらをすり合わせたものです。皆で考え、皆で作ったルールです。

保護者 わかりました。とりあえず買い物と散歩に関して、本人と話し合ってみます。言われたように、SOSのサインかも知れませんし・・・。もし単に買い物や散歩がしたいのであれば、それも本人と学校の先生と話し合ってみます。

鈴田 それは良いことです。ぜひ話し合ってみてください。保護者の方の思いも、学校の先生の考えも、すべてはご本人さんのためにという同じ方向に向かっていることを忘れないでくださいね。話し合いは、万能ではありませんが、結構有効ですよ。

保護者 わかりました。学校の先生も、あの子のために言ってくれているのですから、話せばわかり合えますよね。がんばって話し合ってきます。

学校で、個別の教育支援計画や指導計画を作っている場合、その目的は明確になっていますか。計画を作ることがゴールになっては本末転倒です。目的のために計画を作るのです。それは、本人さんの夢や希望、周りの話し合いから生まれてくるはずです。話し合いを続けると、時にルールが生まれます。その場合のルールは、こちらの要望の一方的な押しつけではなく、目的を達成するためのルール、本人さんが納得できるルールになっているはずです。時々は確認してみてくださいね。